Updated on 2023-06-27


1.継続性のない性格を計算に:英検を利用
(1)英検の利用でペース作り
よく驚かれることですが、実は、私は『継続的努力』が全くできない人間です。『ウサギとカメ』のお話の典型的な『ウサギ』タイプです。習い事は、強制されない限り3回以上続いたことがありません。塾や予備校も行ったことがありません。どうせ続かないからです。
だから、英語の勉強をするにあたっても『独学』しか方法はありません。(お金もなかったし…)。そこで考えたのが、英検を利用し、自分の継続性の無さも考えて、『英検前の3ヶ月だけ死ぬほどやろう』というプランです。


(2)逃げ道をなくす方法
しかしそれだけでは継続を担保できなかったので、周囲の人に「今度英検を受ける」と言いふらしてまわり、自分にプレッシャーをかけてみました。それなら途中で投げ出すことが恥ずかしくてできなくなるからです。
これは英検の度に使った方法で、英検が近づくと「あと何日で英検」ということまで人に言って自分へのプレッシャーを維持しておきました。


2.時間の使い方:人はストイックと言うけれど、実態は…
(1)休憩時間ゼロ
私は『年中無休』で12時間営業の喫茶店を経営していました。だから学習に集中できる時間は1日せいぜい3時間が限度です。期間は3ヶ月ですから3時間×90日=約270時間の勝負です。この限られた時間では1分のロスも命取りです。したがって学習を開始してから英検の試験当日まで休憩時間はゼロです。
具体的には、朝起きた瞬間から単語やリスニングを始め、夜寝付くまでリスニングを聴き、風呂でも湯船につかっている時は単語を覚えるというような状態です。実際に『学習不可能』な時間は、風呂で体を洗っている時だけでした。両手がふさがって本が持てないからです。濡れてしまうし。


(2)『ウサギ』にはこの方が楽
こんなやり方を聞くと、とても『ストイック』や『スパルタン』なやり方に思われるかもしれません。しかしこれは自分の性格を計算に入れた作戦でありウサギタイプの自分には、実際この方が精神的にずっと楽だったのです。
どういうことかと言うと、私のような『ウサギタイプ』の人間にとっては、一旦休憩時間を取ってリラックスしてしまうと、きつい勉強に戻るのは精神的にとても大きなストレスであり、あれこれ言い訳をして逃げる可能性が大きくなるのです。だったら、たかが3時間のことなので休憩などは取らない方がはるかに楽です。
ただし実際に3時間ぶっ通しで集中していたわけではありません。そもそもそんな継続力は持っていません。せいぜい1時間半が限度です。そこで取った作戦は『集中→流す→集中』というリズムです。この『流す』時間帯ではあまり頭を使うことはやらず、気楽に復習をしていました。この『流す』時間が適度な休憩の代わりになったのです。
実はこの作戦は大学受験で実証済みだったので成功する自信はありました。大学受験では毎日15時間この『集中→流す→集中→流す』を半年間ロスタイム無しでやり通しましたから、それと比べれば楽なものでした。


3.学習方法の検討:常に1級の2次試験のスピーチを念頭に
(1)大学受験の教材をそのまま利用
実用英語の学習に当たって英検を利用したのは上述の通りですが、具体的には2級から受け始めました。ご存じの方も多いと思いますが、英検の2級は大学受験とほぼ同じレベルです。したがって教材も大学受験用と同じもので用が足ります(リスニングは別途必要ですが)。
ただし『使い方』は決定的に変えました。大学受験では筆記試験で正解が選べればいいですが、実用英語を目標にする以上は『使いこなす』レベルに達しなければなりません。私の場合は2級を受ける段階ですでに1級の2次試験のスピーチを想定して学習しました。大学受験では通読したことがなかった文法書も、2級の前に5回、準1級の前に2回、1級の前にも2回と、合わせて9回通読しました。それぐらいやり込まないと自信を持って英文法を『使いこなす』ことは難しいと判断したからです。
他の教材(たとえば単語集・熟語集)なども、『使うつもり』の覚え方を貫きました。その覚え方をしておかないと、例えば動詞の次に使うべき前置詞などが口から出てきません。


(2)文法書の通読は避けて通るな
文法書については、その通読には大きなエネルギーがいりますが、これを避けていては結局『遠回りになるだけ』で、必ず準1級レベルの下で『頭打ち』します。『やるべきことをきちんとやる』ことが長い目で考えれば一番確実で速い方法で、文法は『やるべきこと』の1つです。
この点については多くの『負け組』を見てきました。英検1級レベルになると10回目という人もざらです(当時は年2回でしたから10回とは最低5年やり続けているということです)。こういう人たちに共通なのは『時間だけダラダラかけて、やったつもりでいる』ことです。その一方で『やるべきこと』を手抜きしています。文法書を通読するだけのパワーのない人は1級を受ける資格はないと言っても過言ではないでしょう。


(3)『独り言練習法』
実用英語では、大学受験と違って『書く・話す』もきちんとできなければなりません。特に『話す』は、相当練習をやっておかないとスラスラと出てくるものではありません。私は最初から1級の2次試験のスピーチを想定して学習しましたが、特に『話す』については工夫をこらし、自分の頭の中で2人の人物を作って『想定会話』を繰り返しました。
これを自分で勝手に『独り言練習法』と名付けているのですが、これなら高い金を外人に払ってレッスンを受ける必要も無く、余計なストレスも感じないで続けられます。ただ、これにはリスクがあります。それは「自分の話している英語は本当に正しいか?」という疑問に答えてくれる人がいないということです。
しかしこの困難はかえって普段英文を読むときの注意力を高めてくれました。疑問は『その場』では解決できませんが、多くの英文に接しているうちにいつかどこかで答えが現れます。それに『気づく力』があれば、たいていの疑問はやがて解決できます。
またこの方法は、仕事中であっても『頭がヒマしている』状態ならいつでもできます。例えば喫茶店のカウンターでお客さんが話している内容をこっそり聞きながらそれを頭の中で英語にしてみるのも良い練習になりました。


4.一番重視したこと:「何を語るか」
(1)『音』と『リアリティ』
英語の学習を始めるにあたって「何が重要か?」「母国語をどうやって習得したか?」を常に考えていました。そして行き着いた答えが『音』と『リアリティ』です。
子供が母国語を習得する過程では、文字は使わず音で言語を覚えていきます。また古代の人間でも言葉を使っていたはずですが文字はありませんでした。つまり人間の脳の中で言語は『音』を通して処理されているはずです。だから音を重視しない言語学習は、たとえ『読む・書く』に特化するとしても非効率的でしょう。
また子供は『自分のこと』『自分と関わりのあること(または強く興味を引かれること)』を話したり聞いたりしながら言語を身につけていきます。
したがって外国語を習得する場合も同じプロセスが必要なはずで、この必須の要素を見落とした学校教育には本当に腹立たしく思ったものです。
さてこのリアリティですが、練習の段階では話し相手がいるわけでもないので、『話し相手がいるつもり』で練習する、つまりシミュレーションを繰り返すことになります。
このシミュレーションで大切なのが『想像力』です。私が生徒に指導する際も「役者の台詞と同じように、その人物になりきって、気持ちを込めて英文を言いなさい」と常々言っておりますが、ここでどれだけ実感を込めて練習できるかが勝負で、結局は想像力の勝負となるのです。


(2)語る内容
次に重要な点は、「何を語りながら練習するか」でした。そこで私が目を付けたのが『日本』を題材とすることです。理由は、日本を説明したものであれば英文でも内容が取りやすいこと。また将来に実際英語を使う場面でも、外国人に日本の説明をできることは、日本人としてのコミュニケーションの大切な点だと考えたからです。
この観点から1級のテキストとして、エドウィン・ライシャワーの‘The Japanese Today’を選んだのは大正解でした。500ページを越える著書ですが、日本について、地理・歴史・文化・政治・経済という様々な面から語っていて、英文の教材としてだけでなく、内容自体もとても勉強になりました。行間から筆者の日本に対する愛情も感じられ、その分いっそう丁寧に読みたくなる本で、1級の前に5回通読し、1000単語調べ、「構造がつかめない文や意味が分からない文は1つもない」と言い切れるだけ熟読しました。私の書く英文の文体も当然のことながらライシャワー氏の文体に似ています。


(3)使った教材
『語る内容』の蓄えを作るという観点から上記の著作をテキストとした他は、自然科学系の感覚を付けるために科学雑誌の‘Science’を時々読みました。しかし最も利用したのは英字新聞のコラムです。
英字新聞では署名入りコラムが多く、内容が多岐にわたるのは当然のこと、また筆者によって文体も様々で、これが読解力を相当鍛えてくれたと思います。
英検の受験者を見ていると、例えば受験会場などでも過去問を見ている人がいますが、正直なところ「ダメだろうなあ」と思います。英検の長文の文体はたいていが『可も無し不可も無し』ののっぺりした文で、『文体を味わう』という経験はできません。当日のぎりぎりの時点で過去問を読んでいるようでは、高い質の学習をしているとは思えません。
英検に受かることだけを考えるので過去問中心になるのでしょうが、これは手段が目的になってしまった非効率的な学習方法です。本当の実力を高めるためには様々な文に接するべきであり、特に自分に合った文体を見付けておくべきです。
音声教材としてはラジオのニュースを活用しました。アメリカ英語ではVOA、イギリス英語ではBBCを中心に聴いたものです。今は便利な機器があって様々な教材が手に入りやすいですが、当時は英検やTOEICなどの試験用のカセット以外はラジオを聴くぐらいしか方法がなかったのです。


5.まとめ
以上が私の1級合格までの概略です。ついでに受けたTOEICも950点獲得したので、10ヶ月としてはまずまずの成果だと思います。その後、時々他の言語の試験を受けたりしましたが、だいたい日常会話レベルの3級ならどんな言語も3ヶ月で余裕で合格でき、実際話すこともできます。
この際も重視するのは常に次の3点です。
①基本的文法を徹底的に復習すること。
②発音練習をしっかりやって自分の発音でリスニングの練習もすること。
③リアルな例文を自分で作って『独り言練習法』を繰り返すこと。
これが言語学習の必須の要件ではないでしょうか。
読まれた方の参考になればと思います。


英語道場長